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2014年8月 8日 (金)

(59)武器輸出解禁の衝撃

        公表された資料をもとに三菱重工の過去と現在を分析し、日本の代表的製造業
       の一つである三菱重工の経営陣が何を考え、会社をどこへ導こうとしているのか、
       それが日本の経済や国民にどのような影響を与えるのか、皆さんと一緒に考えた
       いと思います。

        皆さんからのご意見・ご感想をお待ちしています。

                      日本共産党三菱重工広製支部 経営分析チーム

(59)武器輸出解禁の衝撃
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まとめ
 安倍内閣は今年4月に武器輸出を原則解禁したが、安倍首相の武器輸出トップセールスは1年前から始まっていた。
 4月以降、武器輸出をめぐる動きはせきを切ったように激しくなっている。
 武器の国際展示会には日本の主な軍需企業が参加するようになった。
 軍需企業の強い要請をバックに政府主導で進められている武器輸出の動きは、世界に大きな影響を与えようとしている。
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安倍首相の武器セールス

 安倍内閣は今年(2014年)4月1日の閣議で武器輸出を原則解禁する「防衛装備移転三原則」を決定したが、安倍首相が先頭に立ったセールスはその1年前から始まっていた。

 日本共産党の井上哲士議員は、昨年(2013年)4月から今年1月にかけて安倍首相が行った外遊(のべ15ヵ国)に軍需企業のべ32社が同行し、日本政府が訪問国との間で「防衛交流」などで合意していることを明らかにしている(2014年3月12日の参院予算委員会にて)。昨年4月末から5月始めにかけてのロシア・中東訪問では三菱重工や川崎重工など12社が同行。日本政府と各国政府との会談では、「防衛交流」の拡充(ロシア)や「防衛交流」の進展(サウジアラビア)、「防衛」での協議、協力(トルコ)などで合意している。これを含めて、同様の趣旨で安倍首相は合計6回の外遊をしている。
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      時期     訪問先       同行企業

    ① 2013年   ロシア・     三菱重工、川崎重工、三菱電機、東芝、富士通、IHI、
       4月末~  中東5ヵ国   JX日鉱日石エネルギー、日立製作所、コスモ石油、
        5月初            いすゞ自動車、住友商事、三菱商事

    ② 2013年5月 ミャンマー   三菱重工、NEC、東芝、IHI、日立製作所、住友商事、
                        三菱商事

    ③ 2013年8月 中東5ヵ国   JX日鉱日石エネルギー、日立製作所、コスモ石油、
                        住友商事

    ④ 2013年10月 トルコ(再訪問) 三菱重工、IHI、三菱商事

    ⑤ 2014年1月 アフリカ     IHI、三菱商事

    ⑥ 2014年1月 インド      三菱重工、NEC、東芝、日立製作所

                                                       (しんぶん赤旗 2014年3月13日より)
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せきを切ったように

 武器輸出を原則解禁した4月になると、各国の「日本詣で」がせきを切ったように繰り広げられるようになったと日経が報じている。それも政府の主導でおこなわれている。
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     今月10日、東京・霞が関。経済産業省で日本とフランスの防衛企業15社の幹部が一堂に会
    した。

     「日本のレーダーやセンサー素子技術はなかなかまねできない」「次世代の対空ミサイルシ
    ステムに採用できないか」。三菱重工業や川崎重工業、仏エアバスグループなどのやりとりは
    白熱。防衛装備移転三原則の決定で日本側も望む航空機や陸上装備品の国際共同開発も話題に
    上った。

     三菱電機の鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)。各国の国防当局や企業の幹部が頻繁に足を運ぶ。
     英国防省が熱い視線を送るのが戦闘機に搭載する対空ミサイル「ミーティア」。戦闘機に搭
    載する高性能のミサイル技術に着目、同社に共同開発の誘い水を送る。
     同工場では対空ミサイル「シースパロー」の後継機もライセンス生産している。同機に注目
    する米国防総省は軍事技術開発の総本山である国防高等研究計画局(DARPA)と先端軍事
    技術の取り込みも狙う。

     日本政府が武器輸出三原則の見直しを本格化させた昨年末以降、海外勢が日本のメーカーと
    水面下で接触する動きが出始めた。今月、新三原則が決定されると、各国の「日本詣で」がせ
    きを切ったように繰り広げられるようになった。
             (日経 2014年4月13日「海外から秋波 防衛産業 反転なるか」より)
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日本の最新兵器に熱視線!

 アジア太平洋地域を中心に各国から日本の武器輸出への期待感が高まっていると週刊ダイヤモンドが報じている。
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     5月30日からの3日間、シンガポールの中心地にあるシャングリ・ラ ホテルには、軍服姿の
    屈強な男たちが世界中から詰め掛けていた。アジア太平洋地域を中心に各国の国防大臣が一堂
    に会するアジア安全保障会議、通称「シャングリラ会合」に出席するためだ。

     今年は日本の総理大臣としては初めて安倍晋三首相が参加したほか、ヘーゲル米国防長官も
    出席した。海洋進出を強める中国をけん制するパワーゲームが繰り広げられ、話題を呼んだが、
    実のところ、水面下では日本が話題の中心だった。

     「日本からの参加者に対する反応が例年とは明らかに違った」と話す自衛隊関係者は、さら
    に「日本の武器輸出への期待感が高まっていて、複数の国防関係者から輸出に関する相談を受
    けた」ことを明かした。
           (週刊ダイヤモンド 2014年6月21日 「武器輸出解禁の衝撃! 世界の国防
            関係者が日本の最新兵器に熱視線」より)
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潜水艦技術をオーストラリアへ

 小野寺防衛相はオーストラリアと潜水艦に関する共同研究について交渉を進め、6月11日、外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)で防衛装備品の共同開発に関する協定交渉で実質合意している。
 「共同研究」といっても、実質は「日本の“世界最高”の潜水艦技術、豪へ供与か」と日経ビジネス(2014年6月2日)は報じている。その潜水艦は、ブログ「(41)武器輸出と三菱重工」で見た「そうりゅう型潜水艦」である。

    (注)そうりゅう型潜水艦
      海上自衛隊初の非大気依存推進機関搭載潜水艦。性能が非常に良いといわれている。
      三菱重工(神戸造船所)と川崎造船で建造中。

武器の国際展示会に日本企業が13社参加

 安倍政権の武器禁輸撤廃で、世界最大規模の武器国際展示会(ユーロサトリ)に初参加の三菱重工業をはじめ日本企業13社が参加。その中には、政府による出展の呼びかけに応えて参加した企業も。現地から次のような報告があった。
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    【パリ=浅田信幸】世界最大規模の武器国際展示会(ユーロサトリ)が(6月)16日、パリ
    近郊の見本市会場で開幕しました。初参加の三菱重工業をはじめ日本企業13社が参加し
    ました。安倍政権が4月に防衛装備移転三原則を閣議決定し、これまでの武器輸出原則禁止
    を撤廃したことを受けたものとみられます。

     参加した日本企業は三菱重工のほか川崎重工業、日立製作所、東芝、富士通、NECなど。
    安倍政権は武器輸出を積極的に推進する姿勢を明確にしており、政府による出展の呼びかけ
    に応えて参加した企業もあります。

     「市民安全・緊急対応コーナー」の一角に設置された日本のブースでは、新型装甲車の模
    型や地雷探知機を展示。気象レーダー、無線機、超高感度監視カメラなど軍事転用も可能な
    多くの製品を紹介しています。

     三菱重工の担当者は今回の出展について「日本の安全保障に資するため、世界の動きを把
    握することが主目的だ」と説明。期間中に「商談の予定はない」と話しました。

     会場前では、反戦平和団体が「武器製造は戦争の製造だ」などと書かれた横断幕を掲げて
    抗議行動を繰り広げました。
     (しんぶん赤旗 2014年6月17日「武器国際展示会に日本企業 三菱重工など13社」より)
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    (注)ユーロサトリ(EUROSATORY)
       1992年よりパリで2年に1度開催されている世界最大規模の陸上・ 航空防衛セキュリ
      ティ展示会。来場者は業界関係者や政府機関メンバー、関連分野の専門 職などの招待さ
      れたプロフェッショナルに限られ、一般人の入場は制限されており、 ビジネスに特化し
      た展示会。2012年に開催されたユーロサトリの来場者は130ヵ国53,480 人。
              (「国際セキュリティショーEUROSATORY2014 出展のご案内」より)

世界最大級の航空展示会に川崎重工業などが初出展

 世界最大級の航空展示会「ファンボロー国際航空ショー」が7月14日に開幕。日本から川崎重工業などが初出展し、各国の国防関係者の関心を呼んだことが伝えられている。
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     爆音を立てながら戦闘機が上空を旋回し、軍用ヘリが駐機するファンボローの展示会場。
    初出展した川崎重工のブースでは、潜水艦などを探索する国産哨戒機「P1」の模型を手に
    担当者が最新技術の説明に追われた。

     「ソナーブイ(音響探知機)に興味がある。日本の技術力は高く輸出できればビジネスに
    なるのでは」。英ウルトラ・エレクトロニクスの担当者は強い関心を示した。

     「P1」は川重を中核に開発した純国産機。NECのソナー技術のほかIHIの高性能エ
    ンジン、操縦系統を電気から光信号に変えた初のシステムなど注目度は高い。川重の村山滋
    社長も「互恵関係を築き、相手国の国防のために協力できる」と政府の新原則に積極対応す
    る考えを示す。
       (日経 2014年7月15日「日本の防衛産業、手探りの出展 英航空ショー開幕」より)
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 武器輸出の原則解禁から4ヶ月、軍需企業の強い要請をバックに政府主導で進められている武器輸出の動きは、世界に大きな影響を与えようとしている。それは日本が、武器を輸出しない平和国家として軍縮分野で一定の国際的役割を果たしてきた道から、武器輸出国として軍縮に真っ向から反する道への変質がいかに重大な結果を招くかを予感させる。
 日本の軍需企業のドンといわれる三菱重工。せめて武器の輸出はやめてもらいたい。

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