2018年6月 8日 (金)

3重工の決算・内部留保・配当

  日本の大手3重工と言われる三菱重工、川崎重工、IHIの2017年度の決算・内部留保・配当を、各社の決算説明資料と決算短信(決算概要)から整理しておきたいと思います。
 3社とも重工業としてエネルギー・環境、インフラ、航空・宇宙・防衛の部門を有しており、海外売上も多くグローバル化している点で共通です。近年、経営環境が厳しい上に経営上の問題もあって業績は思うように伸びていないようです。それでも内部留保を3社ともに増加させています。
 3社とも株主第一主義の立場に立っていますが、その中でも三菱重工の配当がダントツに大きく、株主第一主義の先頭に立っています。さらに三菱重工は2018年度から国際会計基準(IFRS)を適用しますが、これは海外の機関投資家(ファンドなど)重視の方針なのでしょう。

三菱重工

             2016年度実績   2017年度実績   2018年度計画
 受注高        42,756億円      38,757億円      41,000億円
 売上高        39,140億円      41,108億円      42,000億円
 営業利益        1,505億円       1,265億円        1,600億円
 純利益           877億円        704億円          800億円
 ROE              5.1%        3.9%              4%
 内部留保      14,184億円      14,584億円     -
 配当         120円/株        120円/株        130円/株

 
  (注)ROE:純利益÷株主資本(%)

 (注)内部留保=利益剰余金+資本剰余金 としました。
 (注)株式併合(10株→1株)を実施したため、1株当りの配当は2016年度についても10倍しています。
 (*注)2018年度から国際会計基準(IFRS)を適用しますので、営業利益は2018年度計画については事業利益(営業利益+金融収支以外の営業外損益+特別損益)になっています。2018年度計画のROEは、国際会計基準(IFRS)を適用すると6%と記載されています。
 なお、(*注)以外の(注)は、川崎重工・IHIにも共通です。

 三菱重工はすべての事業を「伸長・維持事業」「変革・縮小事業」「新規事業」に分けて力を入れる事業・入れない事業を明確にしています。
 その中で、「伸長・維持事業」の収益力は安定しているとしています。「伸長・維持事業」には次の事業があります。
  ・火力
  ・ターボチャージャ、冷熱等の量産品
  ・民間航空機
  ・防衛・宇宙 他
 これら合計の売上高は約27,000億円、営業利益は約2,100億円で営業利益率は約8%と発表しています。主力製品である火力は世界的に需要が減少して厳しい状況ですが、利益率は維持しているようです。
 ドメイン別では、売上高はインダストリー&社会基盤ドメインが最も大きいですが、営業利益(事業利益)はパワードメインの方が大きい状態が続いています。三菱重工の中で主役が交代とは言えないようですが、企業の性格が変わりつつあるのかもしれません。

川崎重工
 

              2016年度実績     2017年度実績    2018年度計画
 受注高        13,487億円      16,080億円      15,900億円
 売上高        15,188億円      15,742億円      16,500億円
 営業利益         459億円         559億円        750億円
 純利益           262億円         289億円        470億円
 ROE              6.0%         6.4%             9.7%
 内部留保       3,418億円         3,626億円     -
 配当            60円/株         60円/株       70円/株

 
純利益やROEを見ますと、3社の中では最も順調に行っているようです。しかし、三菱重工のような高配当はしていません。

 売上げ・営業利益のトップは航空宇宙部門です。
 「モーターサイクル&エンジン」部門は、消費者に届ける最終商品を大量生産している点で他の2社にはない特徴を有しています。この部門も堅調なようです。

IHI
  

                    2016年度実績     2017年度実績    2018年度計画
 受注高       13,898億円        15,050億円     15,000億円
 売上高       14,863億円        15,903億円     15,000億円
 営業利益       473億円           722億円       850億円
 純利益            52億円           82億円       320億円
 ROE         1.6%                2.6%
 ROIC         5.0%               7.7%
 内部留保      2,033億円        2,070億円 
 配当         0円/株          60円/株          60円/株

 
経営指標としてROIC(投下資本利益率)を重視しています。

 2016年度は海洋構造物事業で損失が発生して、配当をゼロにしましたが、その後回復傾向にあるようです。
     ◇
訂正とお詫び
 ブログ「新・中期事業計画は株主偏重」(2018年5月11日)に誤りがありました。申し訳ございません。
 このブログで「ROEは、純利益÷株主資本×100ですから、分子の純利益が2000億円から1700億円に減少するにもかかわらずROEを向上させるということは、分母の株主資本を減少させることを意味します。株主資本を意図的に減少させるには、市場から自社株を買い上げて消却することでできます」と書きましたが、株主資本が減少する場合はそれだけではありません。
 株主資本には、株主が払い込んだ資本金のほかに利益を内部留保した利益剰余金なども含まれます。ブログで比較したのは、2015事業計画の目標値と2018事業計画の目標値です。その内、2015事業計画の目標は大きな純利益を続けて利益剰余金も非常に大きくする目標でしたが、結果はそうはいかずに利益剰余金は少なく、今後についてもさほど大きな利益剰余金を目標とすることができないこと、さらにIFRS(国際財務報告基準)を適用するために自己資本(株主資本)が小さくなることもあって、結局、市場から自社株を買い上げなくても株主資本が大幅に小さくなっています。したがって、市場から自社株を買い上げるように書いたのは間違いです。
 なお、事業計画の数値は次のとおりです。
  2015事業計画の目標:純利益2,000億円、株主資本20,500億円、ROE10.2%
  2018事業計画の目標:純利益1,700億円、自己資本(IFRS適用後)16,500億円、ROE11.0%

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年6月8日

2018年6月 1日 (金)

日立の原発輸出も難航

今2件の原発輸出案件が動いています。一つは日立がイギリスのアングルシー島に建設するプロジェクト、もう一つは三菱重工がトルコのシノップに建設するプロジェクトです。
 この内、三菱重工のプロジェクトについてはブログ「トルコへの原発輸出 その後」(2018年4月6日)で状況をお知らせし、その後新しい情報は公表されていません。今回は、最近新聞などで報じられている日立のプロジェクトについて状況を整理しておきたいと思います。
 
日立の原発輸出
 
  日立は福島原発事故の翌年・2012年11月に原発輸出を目指して、原発の新設計画を持っているイギリスの電力企業ホライズン・ニュークリア・パワーを買収しました。
 2017年4月には、自社の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基の建設・運営に必要な許可申請をイギリスの原子力規制当局に提出し、2017年12月に包括的設計審査が計画通り完了しました(ニュースリリース 2017年12月14日)。総事業費は3兆円と言われています。
 
総事業費3兆円の捻出
 
  3兆円の捻出について日経(2018年5月11日)は次のように伝えています。
 ・英政府が約2兆円を融資する譲歩案を示した。
 ・日英それぞれの政府・企業連合と日立が各3,000億円ずつ出資する支援案を英政府が示した。
 整理しますと次のようになります。
  日立              3,000億円を出資
  英政府・企業連合   3,000億円を出資
  日本政府・企業連合 3,000億円を出資
  英政府           約2兆円を融資
 
事故時の賠償責任と電力買取りの価格保証

 上記の「日本政府・企業連合 3,000億円を出資」は、どの企業が出資するのか決まっていませんが、3兆円あればそれでいいのかというとそうでもありません。
 日立は事故が発生した時の賠償責任を回避しようとしていますし、事業で確実に黒字が出るように英政府に電力買取りの価格保証を求めています。
 日経は次のように伝えています。
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 日立社内で譲れない条件として浮上しているのが、原子力損害賠償責任の軽減・免除だ。日立は現在、英原発事業の開発会社の全株を保有しているが、段階的に出資を引き下げる方針だ。
 
 英政府による電力の買い取り価格についても引き続き協議する。買い取り価格は事業採算に直結するため、日立側は英政府に長期間にわたる価格保証を求めている。
  (日経 2018年5月29日「日立、事故時の賠償責任が焦点 英政府と原発協議継続」より)
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 日立は原発事業会社であるホライズン・ニュークリア・パワーを買収して全株を保有していますから、このままでは事故時の賠償責任が大きくかかってきます。それを回避するために出資比率を引下げようとしています。
 
原発は経済的にも成り立たない

 このようにイギリスと日本の政府が資金を出して応援してもすんなりとはいきません。原発は危険な上に経済的にも成り立たないと断言できるのではないでしょうか。
 しかし、政府が関与するために企業にとっては確実にもうかる事業になります。価格保証によって利益を得て、損失は両国の国民に負担してもらうことになりますから。
 
インドへの原発輸出交渉を隠蔽

 話が変わりますが、3月26日にインド・ムンバイで開かれた原発輸出に関する作業部会の議事録が「黒塗り」「白ヌキ」されて情報公開要求者に提出されたことを、5月30日の衆院経済産業委員会で日本共産党の笠井議員が告発しました。この作業部会には原発メーカーである日立GEニュークリア・エナジー、三菱重工、東芝エネルギーシステムズも出席しています(赤旗 2018年5月31日より)。
 
   日本共産党三菱重工広製支部 2018年6月1日

2018年5月18日 (金)

わかりにくい「2018事業計画」

  三菱重工の新しい中期事業計画「2018事業計画」が株主偏重であることを前回のブログで見ました。数値目標を見ればそのことがわかりますが、今回は経営の考え方そのものが株主偏重であり、「2018事業計画」はファンドに見せるために作られたのものということを指摘しなくてはなりません。

 社長の顔が、大株主であるファンドの方を向いていて働く者や国民の方を見てはいないので、社長が作った事業計画は働く者や国民にとって大変わかりにくいのではないでしょうか。
 三菱重工のホームページで、「IR情報」→「経営方針」→「中期経営計画」と進みますと、「2018事業計画」の説明資料と説明会動画を見ることができます。説明会動画は決算の説明と「2018事業計画」の説明があります。その内、「2018事業計画」の説明は宮永社長がやっています。

 
TOP比とは
 
  「2018事業計画」のp.11「Ⅱ-2. 基本方針・戦略(1/3)」に「TOP比」という言葉が出ています。その意味をその次のページ(p.12)で説明しています。
 その説明によりますと「TOP比」とは「Triple One Proportion」(訳:3つの1という比率)の略で、その中身は「経営目標(比率)として、売上:総資産:時価総額=1:1:1を設定」と書いてあります。
 これら3つの金額(売上・総資産・時価総額)を同じ規模にするというのが第一にかかげる基本方針・戦略だということです。ただし、「2018事業計画」で一気にその目標に行くのではなくて、中間的な目標をかかげています。
 なお、時価総額とは株価の時価総額(=1株当りの株価×発行株数)です。
 
売上・総資産・時価総額の現状
 
   現状は「15事計実績」として「1 : 1.3 : 0.3」と書いてあります(p.11)。
 これらの数値を確認するために2017年度決算を見ますと、売上は4.1兆円、総資産は5.5兆円です。時価総額を計算するために発行株数を有価証券報告書で見ますと33.7億株(2017年3月末)です。ただし、このときは10株→1株とする前ですから、今では3.37億株になります。最近の株価をインターネットで調べますと、過去1年間における三菱重工の株価は4,000円~4,600円です。そうしますと時価総額は概ね1.3兆円~1.5兆円になります。
 その結果、売上:総資産:時価総額は、4.1兆円:5.5兆円:1.3兆円~1.5兆円となって、概ね「1 : 1.3 : 0.3」であることが確認できます。
 
 「TOP比」の目標
 
   当面する「2018事業計画」の目標は「1 : 1.1 : 0.6」です(p.11)。そして、事業規模(売上)は「5兆円」、総資産は「5.3兆円以下」と出ていますから、時価総額の目標は(5兆円×0.6=)3兆円ということになります。時価総額3兆円を実現するには、発行株数が変わらなければ株価は現状の2倍にならなくてはなりません。3兆円÷3.37億株=8,900円/株ですから。
 「2018事業計画」のあとは1 : 1 : 1を目指すというのですから、そのとき株価は1,500円/株くらい、現在の3倍以上ということになります。
 
実現方法
 
 このような「TOP比」の目標を達成する方法、言い換えれば株価を2倍・3倍にする方法は「成長戦略に基づくポートフォリオの継続的組換え」が第一だと書いています(p.11)。常に成長が期待できる事業に事業の組合せを変えていくということです。そうすることで利益を上げ、その結果、株価が上がるということです。
 これまでもそのような考え方で他社の事業を吸収合併したり、利益率の低い事業を外部に切出したりしてきました。それをこれからも積極的に続けるということです。働いている人たちは職場変更・職務変更と動かされまくる日々が続きます。それに応じることができない人は自己都合退職に。
 
なぜこのような目標?
 
   説明会動画の中で社長は、当面の目標として1:1:1が理想形で、売上は5兆円規模がちょうど良いといっていますが、それ以上の根拠を示していません。さらに社長は、このような考えは、これまで三菱重工にはなじまなかったとも言っています。
 それは当然のことではないでしょうか。株価は自社の業績を反映しますが、自社の努力だけではどうにもならない面もあります。過去1年間における三菱重工の株価が4,000円~4,600円の間を上がったり下がったりしています。三菱重工の業績がそんな変化をしたのでしょうか。株価は、世界の経済の動きにも政治の動きにも左右されます。ファンドは安く買って高く売ることを狙っています。そのような株価をなぜ基本方針のトップに組み込むのか? だれもが疑問を感じるのではないでしょうか。しかし、ファンドは大喜びしているかもしれません。
 ところで、「TOP比」「Triple One Proportion」(訳:3つの1という比率)という言葉をインターネットで検索しても経営関係の用語としては出てきません。きっと英語の得意な社長の自作ではないでしょうか。
 社長が打ち出した新しい基本方針を周囲に納得させるのも大変だったのではないでしょうか。
 
   日本共産党三菱重工広製支部 2018年5月18日

2018年5月11日 (金)

新・中期事業計画は株主偏重

 「2015事業計画」が終了して新しい中期事業計画「2018事業計画」が発表されました。

数値目標を比較しますと
 まず新旧事業計画の数値目標と2017年度の実績(決算)を並べると次のようになります。
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          2015事業計画    2017年度の     2018事業計画
         2017年度の目標    実績(決算)     2020年度の目標
受注        5兆5000億円    3兆8757億円     5兆0000億円
売上        5兆0000億円    4兆1108億円     5兆0000億円
営業利益        4500億円      1265億円       3400億円
純利益          2000億円       704億円       1700億円
ROE         10.2%          3.9%            11.0%
配当      ―               120円/株        180円/株
(注)ROE:株主資本利益率
(注)2015事業計画の配当目標は「配当性向 30%±5%」
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 このように「2015事業計画」の最終年度である2017年度の実績は、事業規模・利益(ROE)ともに目標には遠く及ばない結果になりました。
 新しい中期事業計画「2018事業計画」の目標を見ますと、事業規模は前回と同じ5兆円の目標をかかげていますが、利益(営業利益・純利益)は前回よりも控えめになっています。

株主には大サービス
 しかし、株主資本主義にとって最も重要なROE(株主資本利益率)は、前回の目標(10.2%)よりも高い11.0%になっています。ROEは、純利益÷株主資本×100ですから、分子の純利益が2000億円から1700億円に減少するにもかかわらずROEを向上させるということは、分母の株主資本を減少させることを意味します。株主資本を意図的に減少させるには、市場から自社株を買い上げて消却することでできます。そうすれば、純利益が変わらなくてもROE(株主資本利益率)を引き上げることができるだけでなく、発行株数が減るために配当総額が同じでも1株当りの配当を引き上げることもできます。その結果、株価の上昇が期待されますし、市場の株数が減るために供給と需要の関係で株価が上昇することにもなります。
 配当は、上記の表に出ていますように、これまでの120円から180円に引き上げる計画になっています。
 どうしてこのような大サービスを株主にするのでしょうか? 三菱重工の株主には個人株主もたくさんおられますが、大株主はすべて国内外のファンドです(有価証券報告書 p.45)。彼らの目的は配当と株価です。そして、より高い配当や株が値上がりしそうな企業へと移っていきます。
 三菱重工の「2018事業計画」はこれまでにない株主本位の経営であり、三菱重工の株主資本主義は新しい段階に入ったと言うべきかもしれません。

大規模な人員対策つづく
 前回のブログでも見ましたが、これまで三菱重工は大規模な人員対策をしてきましたが、それをこれからも続ける計画です。
 その最大のものは、火力発電の世界的な需要急減に対応して三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の大規模な事業構造転換をはかるために「人員の再配置他(構想)」として2021以降に次の対策を実施する計画です。
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三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の人員の再配置他(構想)
   国内 自然減+採用抑制  - 5%
        配置・職種転換    -15%
   海外 会社/工場再編    -10%
       (2018事業計画 p.23)
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 三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の従業員数はホームページに「連結 19,574人」と出ていますから、合計で-30%は約6,000人になります。
 このほか、民間機Tier1事業では「人員対策」として、2017年4月の約6,000人を、2021年4月には-40%(-2,400人)という計画です(p.38)。製鉄機械では、「拠点集約、人員最適化等」という計画をかかげています(p.19)。
 前回のブログでもみましたように、人員対策は必ずしも人員削減ではありませんが、働く人たちには大変なしわ寄せであり、不本意な「自己都合退職」に追い込まれる人も出てきます。

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年5月11日

2018年4月27日 (金)

新・中期事業計画の発表を前に3年間を振り返る

 今年の5月には三菱重工の新・中期事業計画「2018事業計画」が発表されます。今回のブログは3年前に発表された「2015事業計画」(2015~2017年度)とその3年間を振り返っておきたいと思います。

「2015事業計画」の数値目標と実績
 「2015事業計画」は「5兆円超事業規模の早期実現」と「高収益性追求」(株主資本利益率向上)という目標を掲げて、その前の「2012事業計画」の株主資本主義路線をさらに推し進めました。
 「2015事業計画」が掲げた数値目標と実績は次のとおりです。
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          2014年度         2017年度        2017年度
            (実績)            (目標)         (実績見込み)
  受注       4兆6991億円   5兆5000億円   4兆0000億円
  売上       3兆9921億円   5兆0000億円   4兆0500億円
  営業利益      2961億円        4500億円      1800億円
  純利益        1104億円        2000億円      800億円
  ROE           6.5%            10.2%        4.4%
  配当    11円/株  配当性向     12円/株
            30%±5% (配当総額 403億円)
(注)ROE:株主資本利益率
---------------------------------

 このように三菱重工の業績は「2015事業計画」の「5兆円超事業規模の早期実現」という目標にも、「高収益性追求」(ROE10.2%)という目標にも遠く及ばない厳しい結果となりそうです。その背景には、客船事業の赤字・MRJの開発遅れなど三菱重工独自の問題もありますが、世界的な経済の低成長や火力発電の需要急減などGEやシーメンス・その他世界の重工業に共通する問題もあります。
 しかし、配当だけは目標以上の達成となっています。2017年度の配当性向(配当総額÷純利益×100)は50%を超える見込みです(403億円÷800億円×100=50.4%)。純利益の半分以上を配当として株主に献上します。配当総額403億円は従業員1人当り約40万円になります。

事業の選別を進める
 「2015事業計画」は目標達成のために「財務/事業性評価」を基に、伸ばす事業・撤退させる事業などに分けて事業の選別を進めました。
 「伸ばす事業」はM&A(合併・買収)などで事業規模を拡大する方針でしたが、この間、大きなM&Aはなかったようです。
 「撤退させる事業」は「速やかなカーブアウト(切り捨て)」という方針で、広島では2015年10月1日付で三菱重工マシナリーテクノロジーのクレーン事業を住友重機械搬送システム(株)に事業譲渡しました。
 このような事業の切り捨てによって突然の転勤・単身赴任や、老親を置いて赴任できないから退職せざるを得ないなど、働く人たちにしわ寄せがきています。

組織を再々編、分社化も続く
 三菱重工は2014年4月から全社を4つのドメイン(領域)に再編しましたが、2017年4月には次の3つのドメインに再々編しました。
 ・パワードメイン
 ・インダストリー&環境・社会システムドメイン
 ・航空・防衛・宇宙ドメイン
 再々編の理由は海外市場の減速という外部環境の変化に対応するためということでしたが、2016年度にはボーイング社の業績悪化による民間航空機事業の不振に続いて世界的な火力発電の需要急減による火力事業の不振と立て続けに経営困難が発生しました。
 その他の組織再編は、グループの鋳造工場を神戸造船所二見工場に集約、長崎地区の防衛・宇宙および火力発電事業関連の工場を再編など、効率向上を目指してさまざまおこなわれました。
 分社化も引き続き行われました。

大規模な「人員対策」
 昨年度のはじめには大規模な「人員対策」を打ち出しました(「2015事業計画推進状況」(2017年5月9日))。「名古屋地区の中期低操業対策」として推定2600名(p.41)ほか、合計5000名を越えると推定される規模です。

 「人員対策」は人員「削減」ではなくて、「社内他部門や社外への派遣等」と説明されていますが、働く人たちには大変なしわ寄せであり、不本意な「自己都合退職」に追い込まれる人も出てきます。正社員でない有期雇用の人は更新されずに人員「削減」になり、派遣の人はその数にも含まれないでしょう。

稼ぎ頭が変わるか?
 3つのドメインの中でパワードメインが稼ぎ頭を続けてきましたが、世界的な火力発電の需要急減によって後退を余儀なくされました。
 それに代わって、自動車向けのターボチャージャー、物流倉庫用のフォークリフト、空調機器が好調のようです。これらはいずれもインダストリー&環境・社会システムドメインの事業で、このドメインが新しい稼ぎ頭になるかもしれません。
 航空・防衛・宇宙ドメインについては、ボーイングの業績悪化やMRJ(三菱リージョナルジェット)開発遅れで厳しい状況になっています。

軍需生産・武器輸出
 安倍政権が2014年4月に「防衛装備移転三原則」を閣議決定して武器輸出を原則自由化しました。これをテコに「2015事業計画」は防衛事業の海外展開を加速させ、2018年度以降大きく伸びていく構想を描いています。
 しかし、オーストラリアへの潜水艦の輸出競争に負け、思うようには進まないようですが、政府が積極的に武器輸出を推進していますから今後海外展開が加速する可能性はあります。それが実現すれば「死の商人」としてのグローバル進出です。

原子力事業・原発輸出
 三菱重工業は、フランスの総合原子力メーカーであるアレバグループが設立する新会社(仮称:NewCo)に約2億5,000万ユーロを出資しました(2017年2月3日)。宮永社長は、「当社は事業を続けていく」、「安全性を追求しながら、原子力のコア技術を維持しておくことが重要だ」と言っていますが、具体的な展望を示すことができていません。「安全性を追求」と言っても、使用済み核燃料である放射性廃棄物の処理については何も言っていません。
 トルコへの原発輸出は、2013年5月トルコを訪問した安倍首相とエルドアン首相(当時)との首脳会談で合意しました。その後フィージビリティスタディを開始して4年が経過した今年3月、「総事業費の試算額が5兆円超と想定から2倍以上に膨らんだ」ことが伝えられました。それを受けて、伊藤忠はプロジェクトから離脱することになりました(2018年4月25日 日経)。

客船、商船事業
 カーニバル社から2011年11月に受注した大型クルーズ客船2隻は大きな損失を出して2016年度に終了しました。
 商船事業の再編は、今年1月に三菱造船(横浜市)と三菱重工海洋鉄構(長崎市)を設立しました。今後、今治造船(株)などとの提携をしながら事業を進めて行くようです。

それでも株主資本主義を続けるのですか?
 宮永社長が続投することになりましたから、5月に発表される新・中期事業計画「2018事業計画」は従来どおり株主資本主義路線をまい進することになりそうです。
 株主とはだれでしょうか? 個人株主もたくさんおられますが、大株主はすべて国内外のファンドです(有価証券報告書 p.45)。彼らの目的は配当と株価です。そして、より高い配当や株が値上がりしそうな企業へと移っていきます。

 労働者は簡単には移って行けません。単身赴任も受け入れざるを得ません。株主よりも働く者を大切にする経営をしてもらいたいものです。
 株主資本主義は短期的利益を重視します。長期的利益は資本効率が悪いからです。そのため、技術進歩にマイナスの力がはたらきます。
 株主資本主義は利益率が高ければどんな事業でもかまいません。国民の多数が反対している原発でも、輸出先の市民が反対している原発輸出も、武器輸出という「死の商人」になることも。
 より大きな短期的利益を求めるには、利益率の高い大きな事業に集中して、その他の事業を切り捨てようとします。しかし、事業の集中はリスクが大きくなるのは当然のことで、三菱重工の最近の経営困難もそのことを証明しているのではないでしょうか。
 結局、株主資本主義は働く者に苦しみをもたらし、企業を弱体化させると言えるのではないでしょうか?

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年4月27日

2018年4月 6日 (金)

トルコへの原発輸出 その後

これまでの経過
 トルコへの原発輸出は、2013年5月にトルコを訪問した安倍首相とエルドアン首相(当時)との首脳会談で合意。黒海沿岸のシノップで、三菱重工がフランスのアレバと共同開発する新型炉「アトメア1」4基(出力合計は約450万キロワット)を建設する計画がスタートしました。計画内容は三菱重工のニュースリリース「トルコ共和国 シノップ原子力発電所プロジェクトへの取り組みを加速」(2013年5月7日)に出ています。

 2013年10月には商業契約で大枠合意。2014年2月1日、三菱重工業は新組織「トルコ原子力IPP推進室」を設置してフィージビリティスタディ(事業化調査)などを進めてきました(ニュースリリース「トルコ原子力IPP推進室を新設」2014年1月7日)。

建設事業費2倍に
 フィージビリティスタディを開始して4年が経過した今年3月、「総事業費の試算額が5兆円超と想定から2倍以上に膨らんだ」ことを各紙が伝えました(2016年3月16日 日経ほか)。
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 官民で進めている原発のトルコへの輸出計画の総事業費が、安全対策の強化などで当初想定していた2兆円の2倍以上に膨らむ可能性があることが、15日分かった。目標としていた2023年の稼働開始も困難な情勢。政府は成長戦略として進める原発輸出で、費用負担も含めた計画の見直しを迫られそうだ。
   ・・・
 トルコへの原発輸出は安倍晋三首相がエルドアン大統領との直接会談を重ねて受注にこぎ着けただけに、日本側も簡単には撤退できない。事業費の負担割合などをめぐり、今後トルコ政府との難しい交渉を余儀なくされそうだ。
  (2018年3月16日 東京新聞)
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 ここで、「事業費の負担割合などをめぐり」という部分は公的資金の投入を意味しているのでしょう。それは国民の負担であり、万一の事故の場合には耐えきれない巨額になることも考えられます。
 なお、三菱重工からはまだ何も発表されていません。

地元では住民の過半数が反対
 地元シノップの市長は原発反対を掲げて当選しました。市民の根強い反原発意識が次のように伝えられています。
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多数派は原子力発電所建設に反対
 2013年4月にKonda Research and Consultancy(訳注:同社はトルコの大手世論調査・コンサルタント企業)が行なった調査によれば、原子力発電所建設反対派は63.4%だった。この比率は東京電力福島第一原子力発電所事故後には一時80%にものぼった。政府が報道機関の相当部分を支配していることや、電力会社や建設会社と報道機関の重役たちが密接な関係を作り上げている今のトルコのメディア事情にもかかわらず、市民の根強い反原発意識はなくなっていない。
 (原子力資料情報室 2014年1月31日「トルコの原発事情 シノップに原子力発電所はいらない」)
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三菱重工は原発輸出を推進
 日本国内での原発新設は、圧倒的な反対世論の前にあきらめざるを得ない状況になっています。それだけに、原発輸出に望みをかけているのかもしれません。
 三菱重工の「パワードメイン事業戦略説明会(2017年6月)」資料の「原子力」のページ(p.30)には「戦略」の一つに「海外プラントはリスク管理強化し推進」を、「施策」には「トルコシノップPJ(ATMEA1)の推進」を掲げています。
 しかし、福島の事故の翌年に「原子力事業本部 事業説明会(2012年6月)」で「ビジョンと基本戦略」に「世界をリードする『原子力総合カンパニー』」を掲げるなど鼻息が荒かったときに比べると大きく後退しています。

     ◇
 地球温暖化を進める火力発電の需要が世界的に急減して三菱重工の経営は苦境に追い込まれています。原子力も火力発電も世論に逆らって推進しようとしたために、再生エネルギーなどへの方針転換に思い切った手を打てなかったのではないでしょうか。株主ファーストで短期的利益を追い求める株主資本主義は反道徳的であるだけでなく、経営上も三菱重工を弱体化させていると言えそうです。

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年4月6日

2018年3月21日 (水)

武器輸出 その後の状況

安倍政権は2014年4月1日、「武器輸出三原則」を撤廃して「防衛装備移転三原則」を決定し、武器輸出の禁止から推進の道に踏み出しました。その後これまで国家安全保障会議(NSC)で審議した結果、海外移転(他国への売却・貸与・無償供与)を認め得る案件に該当することを確認した案件が公表されています。それらは次のとおりです。
(1)ペトリオットPAC-2の部品(シーカージャイロ)の米国への移転(2014年7月17日)
 開発元であるアメリカのレイセオン社と契約した三菱重工が製造している部品です。米軍 はPAC2を使っておらず、レイセオン社も製造を中止していますが、アメリカはPAC2を中東のカタールに輸出するために日本側に輸出を求めてきました。
(注)ペトリオット(patriot):報道などではパトリオットと言っていますが自衛隊などでは英語の発音に近いペトリオットと言っています。
(2)英国との共同研究のためのシーカーに関する技術情報の移転(2014年7月17日)
 イギリスの空対空ミサイルの技術に、日本(三菱電機)の目標を探査・追尾する技術を組み合わせる研究で、来年度は試作品の作成段階に入る方針です。詳細はブログ「日英ミサイル共同開発―歯止めない武器輸出―」をご覧ください。
(3)豪州との潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のための技術情報の移転(2015年5月18日)
 オーストラリアの次期潜水艦の共同開発・生産のパートナー選びの話は安倍政権の前から始まっていました。一時は三菱重工と川崎重工が建造している「そうりゅう型」潜水艦が最有望に浮上という報道もありましたが、最終的にはフランス政府系造船会社DCNSに決まりました。詳細はブログ「日本の軍需産業 2016 (4)オーストラリアとの潜水艦共同開発と三菱重工」をご覧ください。
(4)イージス・システムに係るソフトウェア及び部品等の米国への移転(2015年7月23日)
 次期イージス・システムのディスプレイシステム(イージス艦内で作戦に必要な情報を表示させるシステム)です。
(5)豪州将来潜水艦の共同開発・生産を我が国が実施することとなった場合の構成品等の豪州への移転(2015年11月26日)
 上記(3)から連続する案件です。
(6)TC-90等のフィリピンへの移転(2016年9月6日)
 海上自衛隊の練習機TC-90を最大5機フィリピン海軍へ有償貸与します。
(7)F100エンジン部品の米国への移転(2017年12月18日)
 F100はF15・F16戦闘機のエンジンで、アメリカで開発されて日本のIHIがライセンス生産しています。その部品の製造業者がアメリカでは撤退しているためにアメリカからの要請で日本からアメリカに輸出し、アメリカで製造したF100エンジンは他国に輸出されます(2017年12月19日 日経)。
(注)(1)~(6)は「防衛装備の海外移転の許可の状況に関する年次報告書(2017年10月)」に出ています。
 (7)は「F100エンジン部品の米国への移転」に出ています。

武器輸出に関する最近の報道
 次に、昨年1月以降に新聞などで報じられた武器輸出に関する主な記事を拾い出してみました。これがすべてではありませんが、武器輸出を巡ってさまざまな動きや商談があり、政府が積極的に推進していることがわかります。
・自衛隊機輸出へNZと交渉(2017年1月3日 日経)
 政府はニュージーランドに自衛隊のP1哨戒機とC2輸送機を輸出する交渉に入った。ともに製造の中心となるのは川崎重工業。欧米の機種も候補に挙がり、今夏にも調達先が決まる。整備を含めた長期契約になり、数千億円規模のビジネスを見込む。
・日仏、機雷探知共同研究で合意(2017年1月6日 日経)
 フランスを訪問中の稲田朋美防衛相は5日、パリでルドリアン仏国防相と会談し、水中に設置された機雷の探知技術について、日仏両国で共同研究を開始することで合意した。
・ASEANに陸自車両を無償供与へ(2017年2月19日 日経)
 政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)に、陸上自衛隊の中古の輸送車両を無償提供する方針を固めた。フィリピンやベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアが候補。装備品協力は、相手国と防衛面の結びつきを強める。
・哨戒機 マレーシアに無償供与へ(2017年5月5日 日経)
 政府は海上自衛隊のP3C哨戒機のうち、使わなくなった中古品をマレーシアに無償で供与する方針だ。南シナ海での同国の監視能力の向上を後押しし、海洋進出する中国をけん制する狙いだ。
・三菱電機、富士通が米企業とミサイル防衛レーダー共同開発を検討(2017年5月23日 ニューズウィーク日本版)
 米レイセオンと三菱電機、米ロッキード・マーチンと富士通の2陣営がそれぞれ、弾道ミサイル防衛の要であるイージスシステムのレーダーの共同開発を検討していることがわかった。
・東南アジア5カ国と協議(2017年6月15日 日経)
 防衛装備庁は15日、千葉市で東南アジア5カ国と防衛装備・技術協力に関する会合を開いた。会合は非公開で、日本の装備や技術に期待する声が出たという。
・哨戒機「P1」輸出へ布石(2017年6月21日 ニュースイッチ)
 防衛装備庁は航空宇宙産業展「パリ国際航空ショー」で19日(現地時間)、海上自衛隊の固定翼哨戒機「P1」を実機展示した。フランス政府の要請を受けての出展で、自衛隊機が民間機中心の海外航空ショーに実機を出展するのは初めて。
・インド、高性能潜水艦導入へ始動=三菱重、川崎重など関心か(2017年7月25日 時事ドットコムニュース)
 インドの主要メディアは25日までに、政府が高性能のディーゼル潜水艦6隻を新造する計画を始動させたと報じた。インド洋への進出を進める中国や、対立が続くパキスタンを念頭に置いているとみられる。
・自衛隊輸送機の輸出検討 政府、UAEに(2017年8月27日 日経)
 政府が航空自衛隊の新型輸送機「C2」をアラブ首長国連邦(UAE)へ輸出する検討をしていることが分かった。同国の要請を受け、輸送性能などの情報提供を既に始めた。
・空自レーダー タイで入札参加 政府承認(2018年3月11日 日経)
 政府は航空自衛隊の防空レーダーの輸出手続きに着手した。国家安全保障会議(NSC)の閣僚会合が今月、タイ空軍が月内にも実施する入札に参加することを承認した。製造する三菱電機が参加する。
 
官民挙げて武器輸出
 このように政府が積極的に武器輸出を推進しているのはアベノミクスの成長戦略に武器輸出が含まれているからと言えるでしょう。第2次安倍政権発足の8カ月後、産経は次のように伝えています。
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 政府が防衛装備品の輸出を成長戦略の柱であるインフラ輸出と位置付け、関連施設の建設や保守・運用も一体的に売り込むパッケージ型として輸出することが15日、分かった。武器輸出三原則に抵触しないよう装備品を民間転用して輸出に道を開き、輸出活性化による経済成長と防衛産業の底上げを図る。
  (産経ニュース 2013年8月16日「防衛装備をインフラ輸出 政府、経済成長と産業活性化」より)
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 ここでは「武器輸出三原則に抵触しないよう」となっていますが、この9カ月後の2014年4月、安倍政権は「防衛装備移転三原則」を決めて自由に武器輸出ができるようにしました。
 昨年(2017年)11月に防衛装備庁が東京都内で開いた「技術シンポジウム」で、同庁の林美都子国際装備課長が「アジア諸国との防衛装備・技術協力」について講演し、同庁が軍事企業を引き連れてアジア諸国を駆け巡り武器輸出の仕掛けづくりに躍起になっている実態を語っています(赤旗 2017年11月16日「防衛装備庁 武器輸出へ アジア諸国“営業”」より)。
 三菱重工は安倍政権のこのような政策を歓迎して武器輸出を拡大しようとしています。しかし、なかなか思うようには進んでいないようです。この際、武器輸出はやめるという方針を出してはどうでしょうか。そうすれば、世界の人々から尊敬される三菱重工になるのではないでしょうか。
 
   日本共産党三菱重工広製支部 2018年3月21日

2018年3月10日 (土)

トランプ政権の「国家防衛戦略」と安倍軍拡

新たな「国家防衛戦略」
 トランプ政権が初めて作った「国家防衛戦略」を、1月19日、マティス米国防長官が発表しました。その内容について日本経済新聞が報じた主な点は次のとおりです。
・中国やロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ
・核抑止力やミサイル防衛など米軍の体制強化が必要
・北朝鮮とイランを「ならず者国家」としている
・伝統的な同盟国に加えて他国との協力関係も強化する
・日本を含むインド太平洋地域で連携を進める
・国防予算を増やして米軍再建を進める必要がある
  (日経 2018年2月20日「トランプ政権、国防戦略を初策定 中ロ対抗へ米軍強化」より)
 これまでのアメリカの「対テロ」戦争については、「国家防衛戦略」を発表したときのマティス米国防長官の発言が次のように伝えられています。
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 マティス長官は新戦略の発表にあたり「われわれはテロリストとの戦いを遂行し続けるが、現在の米国の国家安全保障の優先課題はテロリズムではなく、大国間の競争だ」と語った。
  (ワシントン発 2018年1月19日 ロイター「米軍の新国防戦略、中ロとの競争を柱に 対テロから転換」より)
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 このように、アメリカは「対テロ」から「中ロとの競争」に戦略の軸を変え、軍事予算を増やして軍拡をさらに進め、インド太平洋地域を重視して同盟国日本などと連携をさらに強めようとしているようです。
 一方、アメリカがオバマ政権のとき、2014年3月に発表した「4年ごとの国防計画の見直し」の中では、中国と軍事的に対決し、中国に対して決定的優位となる新兵器の開発方針を掲げました。
(注)これについては、ブログ「新兵器開発・アメリカの戦略」を参照ください。

 これに比べると今回の「国家防衛戦略」は中国やロシアを「戦略上の競争相手」と表現して軍事的対決が後退した印象を受けます。しかし同時に、米軍の体制強化を求めたり、「核態勢の見直し」では「核の使用条件の緩和」と「新たな核兵器の開発」を進めようとしています。
(注)「核態勢の見直し」については前回のブログを参照ください。

 

軍拡競争は続く
 ロシアのプーチン大統領は、アメリカの「核態勢の見直し」に対する回答ともいえる新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を発表。これは複数の核弾頭を搭載して米国のミサイル防衛網を突破でき、世界中どこでも到達可能であると誇示した、と伝えられました(日経 2018年3月2日「ロシア、新型ICBM開発」より)。
 中国については、イギリスの国際戦略研究所(IISS)が世界の軍事情勢をまとめた年次報告書「ミリタリー・バランス2018」の中で、兵器の近代化を進める中国が配備能力で米国を急速に追い上げていると伝えています(日経 2018年2月15日「中国の兵器近代化が懸念 米空軍の優位性揺らぐ」より)。
 このような軍拡競争ともいえるような動きはトランプ政権の前から始まっていますが、トランプ政権になっても弱まることはないようです。

安倍政権は「敵基地攻撃能力」保有へ
 第2次安倍政権発足後6年連続で日本の軍事費は増加を続けています。新兵器の研究も進められています(ブログ「防衛省概算要求5.2兆円に含まれる新兵器研究」)。

 昨年11月、トランプ大統領が来日したときにはアメリカから武器を大量に購入する要求が突きつけられました。安倍政権はすでにアメリカから高額兵器を購入していますが、今後も多額の購入を続けるようです。
 その上、3月2日の参院予算委員会では、海上自衛隊最大の艦船「いずも」を「攻撃型空母」に改修して、F35Bステルス戦闘機を運用可能にする調査・研究が行われているという衝撃的な事実が明らかになりました(赤旗 2018年3月5日)。これは「敵基地攻撃能力」の保有であり、憲法9条改悪の先取りとも言えるのではないでしょうか。同時にこれは、トランプ政権が「国家防衛戦略」で目指す「伝統的な同盟国」である日本と協力関係を強化して「日本を含むインド太平洋地域で連携」を進めて、「米軍の体制強化」を補完することでもあると言えるのではないでしょうか。

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年3月10日

2018年2月24日 (土)

トランプ新戦略「核態勢の見直し」

 

 トランプ政権は2月2日、新たな核戦略の指針となる「核態勢の見直し(NPR)」を発表しました。
 このニュースはテレビでも新聞でも取り上げられましたが、日本経済新聞(日経)は今回の「見直し」のポイントとして「核の使用条件の緩和」と「新たな核兵器の開発」を指摘し、「核開発競争が再燃しかねないとも懸念される」と報じました。
 今回のブログでは、トランプ政権の「核態勢の見直し(NPR)」の中身を見てみたいと思います。

「核態勢の見直し(NPR)」の日本語訳(要約)
 NPRのフルネームは「Nuclear Posture Review」。前回のものと区別するために「2018 Nuclear Posture Review」をインターネットで検索して、出てきたものの中から「2018 Nuclear Posture Review - United States Department of Defense」をクリックすると、アメリカ国防総省( United States Department of Defense)のホームページの中にある「核態勢の見直し(NPR)」 のページが表示されます。そこで「日本語」を選択すると、表紙にアメリカ国防総省の丸い鷲のマークが付いた「核態勢の検討 2018年2月」(要約) が表示されます。
 要約といってもPDFで18ページあります。翻訳文のためにわかりにくいところもありますが、抜粋しながら紹介させていただきます。

潜在的な敵対国からの脅威
 まず、「序論」(2/18)で「潜在的な敵対国からの一層明白な核脅威を含めて、世界的な脅威の状況は明らかに悪化してきた」と「脅威」を強調しています。
 ここで「潜在的な敵対国」とはどの国か? それは、次の章「進化しつつも不確定な 国際安全保障環境」(2/18)で、ロシア、中国、北朝鮮、イランの名前が出てきます。
・ロシア・中国については、「米国は核兵器の数と重要性を削減し続けてきたが、ロシアと中国を含む他国は反対の方向に進んできた」。
・北朝鮮については、「北朝鮮は国連(UN)安全保障理事会の決議に直接違反して非合法な核兵器やミサイル能力の追求を続けている」。

核抑止論
 次の章「米国の核能力の価値」(4/18)では、「核・非核攻撃の抑止」には「米国の核能力」が必須だと核抑止論を掲げて次のように断言しています。「米国の核能力と抑止戦略が米国、同盟国、パートナー国の安全保障に必要であるという根本的理由は明白である。米国の核能力は、核・非核攻撃の抑止に必須の貢献をしている。それが提供する抑止効果は敵対国の核攻撃を防止する上で独特かつ必須であり、米国の最優先課題である」と。
 このあとも、核抑止論がお題目のように度々出てきます。

核兵器による先制攻撃を考慮
 「抑止に失敗した場合でも米国の目的を達成」(6/18)では、「米国は、米国、同盟国、パートナー国の重要な利益を守るために極端な状況においてのみ核兵器の使用を考慮する」と明言しています。「核で攻撃されたら核で反撃する」ではありません。攻撃が開始されなくても「極端な状況」と判断したら「核兵器の使用を考慮する」、先制攻撃もあり得るということです。

米軍の絶大な攻撃力を誇示
 「三本柱:現在と将来」(8/18)では、米軍の絶大な攻撃力を示しています。「三本柱」とは次の3つです。
・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を装備した潜水艦(SSBN)
・陸上配備型大陸間弾道ミサイル(ICBM)
・無誘導爆弾および空中発射式巡航ミサイル(ALCM)を運搬する戦略爆撃機
 (注)無誘導爆弾とは、航空機から投下する核・非核の爆弾。
 これらについて次のような具体的な数字も示しています。
・14隻のオハイオ級SSBN
・地下サイロに格納された単弾頭式ミニットマン3型ミサイル400基
・46機の核爆弾搭載可能なB-52Hおよび20機の核爆弾搭載可能なB-2A“ステルス”戦略爆撃機
などなど、これらの兵器の近代化を進めながら当面は現有の三本柱体制を持続すると書いています。

米国の歴史上最大の国防予算
 「柔軟かつ安全な核能力: 支払い可能な優先課題」(10/18)では、核戦力維持・運用、近代化に必要な予算規模を大したことではない金額(支払い可能)と書いていますが、昨年トランプ大統領は「米国の歴史上最大の国防予算を議会に要求する」と言いましたから、アメリカの経済にも影を落とすような軍拡を続けることになるのではないでしょうか。
 なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースによれば、アメリカの軍事費はダントツで、6,000~7,000億ドル規模(70兆円規模)です(ブログ「各国の軍事費(SIPRI軍事費データベース)」をご参照方)。

 

小型核兵器の開発・配備
 「非戦略的な核能力による抑止の強化」(10/18)では、「いま、低出力オプションをも含めるよう柔軟な米国の核オプションを拡大することは、地域侵略に対する信ぴょう性のある抑止力の維持にとって重要である」。「国防総省と国家核安全保障庁(NNSA)は、敵対国の防衛を突破することが可能な迅速対応を保証するための低出力SLBM弾頭を配備用に開発する」と明言しています。
 「低出力オプション」とは、小型核兵器を開発して核の選択肢を広げることを意味しています。それは、「迅速対応」して「敵対国の防衛を突破する」ため。まるで、核兵器を強力な通常兵器のように使おうとしているようです。
 結局、抑止力だと言って、使える小型核兵器を開発・配備するということです。このブログの冒頭で紹介した日経の「核の使用条件の緩和」と「新たな核兵器の開発」という2つのポイントは的を射ていると言えます。
 もっとも、悪いのはアメリカだけではないでしょう。しかし、圧倒的な軍事力を持って、自国から何千キロメートルも離れた他国で軍事力行使をしてきたアメリカが使える核兵器を開発・配備することにまさる脅威はないのではないでしょうか。その結果、「核開発競争が再燃しかねない」という懸念も日経が言うとおりです。

核抑止力は人類をもてあそぶギャンブル
 「核態勢の見直し(NPR)」は、もう少し続きますが割愛して、「ミュンヘン安全保障会議」での国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長の発言を紹介します。
 フィン氏は、誤解や事故が原因で核兵器が使われる瀬戸際に世界が追い込まれたことが何度もあり、「核兵器が存在する限り、使われる危険がある。核保有国の政策は人類をもてあそぶギャンブルだ。それはすべての人が敗北するギャンブルだ」。
 特に、トランプ米政権が発表した「核態勢の見直し(NPR)」で核兵器使用の敷居を下げたと強調し、「核兵器の近代化、核軍縮の約束遂行の拒否によって核兵器の使用へと向かっている」。
 「安全保障を強め、理性的で責任のある唯一の核政策は、核兵器を禁止し廃絶することだ」。(2018年2月20日 赤旗「核兵器廃絶こそ理性的政策 抑止力論は人類敗北の賭博」より)

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年2月24日

2018年2月10日 (土)

三菱重工社長「今は戦闘状態」・第3四半期決算発表で

 三菱重工の第3四半期(2017年10月~12月)決算が発表されました。「説明会動画」でCFO(最高財務責任者)の小口正範氏が説明をしていますが、基本的には3か月前に発表した「見通し」どおりに進んでいて、「2017年度業績見通し」に変更はないということです。

 しかし、3か月前には「2017年度業績見通し」を大幅に下方修正しています。その背景などについては、3ヶ月前のブログ「三菱重工 業績見通しを下方修正」でお伝えしました。そのときと同じデータですが「実績と見通し」を再掲します。三菱重工の経営は、経営陣の思いどおりにはいかない厳しい状況が続いていることがわかります。
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  三菱重工の業績 実績と見通し
    14年度 15年度 16年度 17年度
         実績  実績  実績 見通し
受注高   46,991 44,855 42,756 40,000
売上高   39,921  40,468  39,140 40,500
営業利益   2,961  3,095  1,505  1,800
純利益     1,104   638   877   800
             (単位:億円)
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ドメイン別の2017年度業績見通し
 「2017年度第3四半期 決算説明資料」のp.12に今年度のドメイン別業績見通しが出ています。これも3か月前から変更はありません。

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  2017年度業績見通し セグメント別内訳(p.12)
             受注高 売上高 営業利益 
パワー        14,500 15,500 1,000 
インダストリー& 19,000 18,500  800
    社会基盤
航空・防衛・宇宙  6,000  6,500  100
             (単位:億円)
(注)ドメインのほかに「その他」と「消去または共通」がありますので、各ドメインの合計は全社の合計に一致しません。
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 2014、2015年度には2兆円レベルにあったパワードメインの受注高が大きく落ち込み、好調なインダストリー&社会基盤ドメインが主役交代の位置に来ています。パワードメインの落ち込みは世界的な火力発電の後退で、「宮永社長は『火力発電市場は弱含みというより構造的に厳しい状況にある。苦しい状況は少し長くなるのでは』と語った」(日経 2018年2月7日「三菱重工『宮永改革』延長戦へ 続投で背水の陣」より)。
 さらに、「三菱重工子会社の三菱日立パワーシステムズでは、主力の高砂工場(兵庫県高砂市)を中心とした国内拠点で従業員の配置転換など構造改革を進める。ドイツの拠点では全体の3割にあたる約300人の削減にも着手」(同)と伝えられています。

「今は戦闘状態」
 前出の記事は、宮永社長が決算記者会見で続投する意向を表明したこと、続投の理由として「今は大きな問題に会社全体で取り組む『戦闘状態』にある」と社長が語ったことを伝えています。社長がいう「大きな問題」とは、火力発電市場の後退、納期がこれ以上遅れることが許されないジェット旅客機MRJが考えられますが、商船事業や民間航空機も含んでいるかもしれません。さらに、財務に関しては、日立製作所に7000億円あまりの支払いを求めている「南ア問題」も解決していません。
 「今は戦闘状態」という言葉に、社長がどれだけの意味を込めているのかわかりませんが、「今は戦闘状態だから」と、働いている人たちや下請けに厳しいしわ寄せが来なければいいのですが。

人と技術を大切にする経営を
 宮永社長は続投して三菱重工を成長軌道に乗せようと考えているようですが、それはこれまで通り「株主ファースト」経営です。株主の利益を第一にして短期の利益を追うために株主資本利益率の向上を目指し、利益率の高い事業を吸収合併して利益率の低い事業を売り払うやり方です。そのために労働者を将棋の駒のように動かすやり方です。
 他方では、厳しい経営環境の下で利益が下がっても株主への高配当を維持しています。せめて、利益が低い間は配当を減らし、短期の利益を追う経営から人と技術を大切にする経営に注力してもらいたいものです。

   日本共産党三菱重工広製支部 2018年2月10日

«官民挙げて輸出を目指す次世代原子炉「高温ガス炉」は安全か?